トキをデザイン
2022 11.01 16:36
「時」というものがデザインの大切な要素になっているものについて考えたい。
日常わたしたちが、目にしている多くのデザインの寿命はそれほど長くはない。例外として、公共的な建造物は数十年とそれなりの耐久時間が計算されており、中にはガウディのサグラダファミリアのように144年もの時間かけられるものもあるが、そんなレンジでの建造物は他には皆無だろう。コンビニやスーパーに並ぶ日用品のパッケージであれば数年、ものによってもっと早いサイクルで回転しており、デザインも共に消費物となっている。またコミュニケーション・広告的なものは毎年違うキャンペーンやタレントを変え、常にフレッシュ感を醸成しようとしていたりもする。
そもそも広告デザインに関して、普遍性というものは必要無いという事が過去定説として業界ではまことしやかに言われていた。それはあくまでも、日常的に仕事を回す必要のある代理店的思想であり、消費者もその風潮や刺激というものに飼いならされてきたということでもある。今でもトレンドなるものが出現しては消えることを繰り返すことは普遍的に繰り返されていることでもあるのだけど、以前にも増し忙しい。
一方、同じコミュニケーションを続けても、それなりに機能することが近年証明されている。タケモトピアノのCMだ。直接タケモトピアノにお世話になったことはないし、これからもお世話になる時があるのかどうか分からないけど。。それこそ今流行りのSDGsってものなのか。最近では、縄文時代もSDGsのくくりとして語られていたりして「いやちょっと待てい」。簡単に1万年のものに簡単に乗っかってこないでよと思う。
まあそれらはさておき、話したいのは時の幅といっても人間が生きていられる100年間という単位を軽々と越えていく、1000年、10000年という時間についてになる。
それほどの長い時の幅を想像してみると、どうなるか。まずは言葉・言語というものが、ほぼ無力化していくだろう。10000年後の人間が同じ言語を使用しているとは考えにくく、その対象が地球外知的生命体まで広がるとするとなおさらであろう。
1977年に打ち上げられたNASAのボイジャー探査機のゴールデンレコードがある。40000年後に出会えるかも知れない地球外生命体に「地球から来ました」とコミュニケーションを想定し作られたレコードになる。レコードにはさまざまな地球の音や言語だけでなく、このプログラムを解読することにより音声から画像イメージを再現できる仕組みになっている。その解読へのヒントがこのレコードジャケットには、デザインされている。今どきのインフォ・グラフィックの源流ともいえるもので、とても研ぎすまれた美しいデザインだ。
それぞれのデザインの読み方、および再現を試みているものがYoutubeにあった。
わたしも完全には理解できている訳ではないが要約してみると、右下の○が2つ並んでいるところがスタート。これらは宇宙にもある「水素」原子を現しており、2つの間隔は21cm開いている。波長にすると周波数1420MHzの電波になり、1420MHzは約0.7ナノ秒。この「0.7ナノ秒」という数字は、ゴールデンレコードに描かれた数々の記号の解読に関わる重要な数になる。
左下の放射状のものは、地球の位置を現している。その上には二進法を用いたこのレコード全体の再生時間。0.7ナノをかけると「3229秒」(約54分)。左上には、レコードの回転スピードだ。これも記号の円周にかかれた2進数に0.7ナノ秒をかけると「3.59秒」となりレコード一周の時間となる。このスピードで再生されれば、正しい音声が流れる仕組みになっている。世界中の挨拶や、自然の音、チャック・ベリーやルイ・アームストロングやベートーヴェン、グレン・グールド演奏のバッハも収録されている。ビートルズのヒア・カムズ・ザ・サンも収録しようとし、ビートルズのメンバーも喜んでいたのにEMIが許可せずNGになったそうだ。その後、2008年のNASA50周年には、リベンジと言うべきかビートルズの「アクロス・ザ・ユニバース」が北極星に向けて発信され、2439年頃に音は到達するとされている。NASAのこういった仕事や使命を楽しむセンスには脱帽する。
そして、現代でも驚きを隠せないのがレコードの裏面に録音された「画像の音声」である。このジャケットの右半分は、その再生方法の解説である。
右上から音声の波形を表現しており、512本の走査線に割り当てることにより画像が現れるという。その下にある日の丸の国旗を思わせるような図形が、最初の画像の成功例だ。このサークルが再現できれば、他の音声も同じ方法でレンダリングすると、あとの114枚の画像が見れるという仕組みになっている。ちなみに、日の丸国旗のデザインは誰がしたのか諸説あり不明。なかなか素晴らしいコンセプトとバランスだ。
うまくいくのか、これが果たして正解なのか、だれも分からないこの取組こそ、チャレンジという精神であり、今の世の中に足りないことではないか。
またフィンランドのオルキルオト原子力発電所には、放射性廃棄物の最終処分場として「オンカロ」がある。オンカロとは洞穴を意味するらしい。地下400mに放射性廃棄物をキャニスターに入れ、100~120年かけて最大6500トンの核廃棄物が貯蔵される。その後はベントナイト(粘土)で密閉し、10万年以上かけて放射能の減衰を待つ計画である。
この場所の説明を、10万年後の人間に向けて「絶対ここを開けるべからず」といったメッセージを伝えるデザインを作ろうとしている。ピラミッドのお墓や、徳川埋蔵金など、その手の好奇心が止まらない人間たちが掘り起こしそうな事を危惧している。オンカロの最終的な、デザインの解できたのか、どのようなものになったのか、とても興味がある。
情報を整理して分かりやすく伝えるのがインフォ・グラフィックスと言われるものだが、これらは、その前段階にあたる伝える術をまず想像することからはじまるとても高度で「想像力」を駆使するデザインの仕事だろう。
その流れで、縄文の土偶たちの時間を考えてみる。現在の土偶の存在は、結果的に遺ったもので、最初から5000年や10000年後の人間へ向けられてデザインされたものではないだろう。が、しかし結果的に永くコミュニケーションできるものへとなっているのは、文字や言語をデザインに用いなかったこと、そして粘土という素材を使い、さらに火を入れたことも大きな要因だろう。
そもそもこれらデザインの使命は大きく違う。ゴールデンレコードやオンカロには、情報を情報としてできるだけ100%を伝えないといけないミッションがある。かたや、縄文の土偶たちには、核になるものだけをキチンと伝えられれば、のこりは各々の人間の受信力や想像力といったものにゆだねるというスタンスである。
しかしどちらも高度なデザインであり、かつデザインでしか解決できない仕事であることには間違いないのではないか。
千葉の飛ノ台史跡公園博物館にある約11,000年前、縄文早期の土偶。2cmほどのとても小さなものだが、現物をつぶさに観察してるとお腹に紋様を入れた跡が見れ取れる、丁寧な仕事だ。ライティングによる影が、まるで左右二体の遮光器土偶を従えているかのようだ (㊀ö㊀)