縄文のはじまりは
デザインのはじまり

縄文のはじまりは<br>デザインのはじまり

縄文の造形物。
特に土偶についての想いのたけを話したい。

人類が創った最古の土製の焼き物は「人形」だったという。
約29,000-25,000年前の後期旧石器時代オーリニャック文化にあたるチェコスロバキアのドルニ・ベストニツェ遺跡のヴィーナス。食うや食わずの日常の中で、粘土をこねて時間をかけて創ったものが実用的な道具では無く「人形」だということ。

土器といった物理的道具では無く、心理的な道具の人形。一見無用に思える人形を精魂込めて創ったのは、生産性といわれる、効率的なものとはかけ離れた人間の思考がある。
ー 美の考古学 松木武彦 〈新潮選書〉

そして、時は約20,000年後。縄文中期のBC3,300年長野・茅野あたり。
ここらの土地で創られた土偶のデザインは図抜けていて、この上ない美しさ!
このクリエティビティというのは、現代にまで至る美術・デザインの中でもこれ以上のものは存在しないと、本気でそう思う。

特に、この二点の完成度は絶句モノ。
縄文のビーナスと仮面の女神。どちらも長野で出土された国宝土偶。
国宝はおろか全人類の宝にしてもいいものではなかろうか。

茅野市尖石縄文考古館

縄文のビーナス|仮面の女神

何故に縄文人は、このようなモノを創ることができたのだろうか!一体彼らには何が視えていたのか。

同時代の諸外国のモノと比べて、装飾もかなり深く考えられている。また、他の縄文土偶の中においても、このデフォルメの具合など相当な美意識と完成度を感じさせる創造物だ。

特に縄文のビーナスに関して、♡や➕字などいったフォルムを使った人体の表現。なんと新しく、ふくよかなデザインなのか!渦巻などさまざまな紋様は、ヘルメットのような被り物に集約させるメリとハリ。左の足を少し前に出しここだけアシンメトリーにした絶妙なバランス。こういうのを見るとやはり、デザインや音楽というのはあるレベルの先は数値化できないもので、画一化された教育の先にあるものでは到底無いなぁと、はぁ〜しみじみ、そしてうっとり♡。

縄文のビーナス
人間の神秘や生きる希望というものを約5,000年以上の時を越えて、現代に生きているわれわれに、時代を越えて感じさせてくれる。これを同じ人間が創り出した事実を、想像しただけで生きる希望になる。

この土偶を創った人たちの名前はおろか、性別も、年齢も、他の情報は、何もかも知らない。しかしながら、この美しさを享受するのに全くもって必要ではない。現代は、「情報」というものによっていかに人間の目が曇ってしまったのかと改めて思う。

これら図抜けた土偶たちは、縄文人の中においても誰にでも創れたものではない。(土偶もクオリティはさまざまだ)しかも彼/彼女は、専門職ではなくフツーに日常生活の中で制作していた。子どもを育てたり、食べ物を採集してきたり、男なら狩猟に出たりと、まずは生きるための日常があったはず。その他の時間で粘土をこねて、野焼きで焼いて土偶や土器を創る。専属の専任職など無い時代。

そんな時代であっても、土偶づくりはいいデザインを創れる人への頼まれ仕事であったのではないだろうか。私事で恐縮な例えだが、わたしのオカンも、むかし人形を作ったら評判になって鎌倉とかで売ってたらしい。本業の仕事が忙しくなってやめたそうだが。縄文時代にもそんなコトもあったんじゃなかろうか?
例えば、どこそこのムラにいる○○さんって、すごい美しい土偶(彼らはなんと呼んでいたのだろう?)創るのよ!みたいな噂になっていたりして、それがムラの長老の耳にはいって「わがムラのカミサマへの奉納をお願いしたい」みたいにその創り手が依頼をされたりして、そこから改めてその想いを咀嚼し、ムラのアイデンティティを入れ、魂を込めて土偶をデザインした。云々。

それからこのサイズを考えると、土偶づくりはひとりで制作したものだろう。が、焼くときは何人かと一緒だったり、そういうムラでのシステムみたいなものはあったかも知れない。ひとりで行う部分と、みんなで行う部分など、現代の仕事のやり方でも相通じるチームプレイがあったかのでは。得意なことを、得意なひとがやる。それぞれが自分ができることで、社会に参加するようなイメージ。

また創り手の、個性とか作家性とか現代でいう自己アピール的なものは、これら土偶には微塵も感じられない。もしかしたら、頭の紋様部分に、そのムラとか何かを記しているデザインがあるかも知れないが、創り手本人は反映されていないと感じる。

江戸時代でもトノサマに献上する一等いいものには、名前がはいっていないものだったりする。ましてや、カミサマに捧げるものであればなおさら、きっとそうではなかろうか。
尖石縄文考古館で販売されていたレプリカ。これなんとわたしのおやじが歴史サークルの旅で行った尖石縄文考古館にて「縄文人スゴイ!」と感動して買ってきたものを借りてきました。縄文のビーナスのぬいぐるみは、トーハクの2014の国宝展でのお土産。飾ったら一晩で猫に齧られてしまいました、、。


PS 好きが高じて縄文ビーナスTを作ってしまいました (㊀ö㊀)